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製品やサービスの品質保証は、企業やブランドの信頼に直結する重要な取り組みです。今回は翻訳・ローカライズ業務におけるQA(品質保証)の手法について解説します。
人間は誰もがミスをするものです。そのため翻訳業界でも、従来から翻訳者・校正者・管理者らでチームを組み、二重三重のチェックを行う体制がとられてきました。また、翻訳の世界では機械もミスをします。精度が向上してきた機械翻訳ですが、品質は完璧とは言えず、一部が抜けていたり、逆の意味になっていたりといった、人間の翻訳者では考えにくい間違いが起こることがあります。
小さな翻訳のミスが大きなコストをもたらすこともあります。HSBC銀行では2009年、「Assume Nothing(先入観にとらわれない)」というキャッチフレーズが、一部の国で「Do Nothing(何もしない)」と誤訳されるミスが発生。ブランド価値を取り戻すキャンペーンを行うのに、1000万ドルのコストを要しました。すべての翻訳ミスがこのような多額の損害を引き起こすわけではありませんが、翻訳品質確保の重要性を示す事例であるといえます。
このようなミスを防ぐための取り組みが、QA(品質保証)です。今回は翻訳業務におけるQAについて見ていきたいと思います。
QA(品質保証)とは?
QAとはQuality Assuranceの略で、日本語で「品質保証」を意味します。提供する製品やサービスが、求められる品質水準に到達していることを保証するプロセスを指し、製造業やIT業界など、幅広い分野で使われる用語です。ただ品質状態をチェックするだけでなく、欠陥への対処や事後のフォロー、不具合の発生を防ぐ仕組みの構築なども含まれます。
翻訳・ローカライズ分野でも同様に、翻訳の品質確保の取り組みをQAと呼びます。つまり、できあがった訳文や成果物が、目的に応じた十分な品質を確保できているかどうかを確認し、改善を行っていくプロセスです。翻訳品質のチェック事項としては、以下のようなポイントが挙げられます。
- スペル間違いや誤字脱字、文法的なミスがない
- 適切な用語が一貫して使用されている
- 原文の意味やメッセージを正確に伝えている
- 目的に即した文体になっている
- 原文を読んだ時と同じような体験ができる
- 対象地域の文化に適合している
- 日付や数量単位などの形式が対象地域の仕様に適合している
- スタイルや用語などについて、定められたガイドラインや要件に準拠している
いくら優秀な翻訳者でもミスや見落としは起こり得ます。スケジュール等の制約で見直しにかけられる時間が少なくなることもあるでしょう。そのため、さまざまな役割のプロフェッショナルが力を合わせて、品質管理に関わる必要があります。
QAとQCの違いとは?
QAと似た用語に「QC」があります。これはQuality Controlの略で、「品質管理」を意味します。QAが最終的な品質に責任を持つことを目的に、開発、製造、検査、流通までをトータルで見た、より広い範囲をカバーする概念であるのに対し、QCは特に製造プロセス内で品質を確保する具体的な活動に主眼が置かれた概念です。つまり、QA(品質保証)の取り組みの一環としてQC(品質管理)があるといえます。
翻訳におけるQAとは?
翻訳におけるQAを考えるには、まず翻訳業務の各プロセスを認識し、それぞれの段階でどのような品質管理方法があるのかを見ていく必要があります。会社やプロジェクトによって異なる部分はありますが、一般的に翻訳業務は次のようなステップで行われます。
翻訳業務の各ステップにおける品質管理
翻訳者の選定・翻訳作業
プロジェクトマネージャー(PM)は、対象分野(医療、法律、マーケティングなど)にできるだけ詳しい翻訳者に作業をアサインし、スタイルガイドや用語集など、必要な資料を提供します。翻訳者はガイドラインに従って作業を行い、完成後、見直しをした上で、訳文を提出します。
校正・編集
いくら翻訳者が見直しをしていても、先入観や思い込みから逃れられず、ミスが生じてしまう可能性があります。そこで、翻訳者とは別の校正者や編集者がチェックを行います。
校正者は主に、原文との不整合、スペルミス(誤字脱字)、文法的な誤りがないか、専門用語の用法やスタイルがガイドラインに準拠しているか、適切なローカライズがなされているかなどを確認します。編集者は、それに加えて、より広い視野で文書全体を見て、文章の流れや読みやすさ、内容が効果的に伝わっているか、表現上の問題や事実関係の誤りがないかをチェックし、必要に応じて改善を図ります。
例えば、マーケティング分野などの場合は、この編集工程を取り入れ、対象オーディエンスに訴求するメッセージになるよう磨きをかけると効果的です。一方、ユーザーガイドや製品マニュアルなどの場合は、通常の校正工程で正確性の確保に注力するのがよいでしょう。このように目的や予算に応じた校正・編集プロセスの設定が、QAの観点からも重要です。
DTP/レイアウト作業後のチェック
完成した訳文は、使用目的に応じて、ウェブページや印刷物、PDFといったフォーマットにレイアウトされます。その作業を担当するデザイナー、エンジニア、オペレーターは、言語の専門家ではないため、作業後に翻訳者や校正者、編集者ら言語のプロフェッショナル(リンギスト)が仕上がりを確認する必要があります。
意図した内容が正しく伝わる形になっているか、改行やフォントに問題はないか、文字の欠落やコピーミス、タグのミスなどが発生していないか確認します。特に図表やウェブサイトのUIなどは、意味は同じでも、形態によって違和感が生じる場合があるので要チェックです。
また、近年のグローバル化により、その言語を母語としない担当者がレイアウト作業を行う例も増えており、言語のプロフェッショナルによるチェックは重要性を増しています。いくら翻訳時に万全を期していても、レイアウト時に大きなミスがあれば、その価値が台無しになってしまうため、品質確保の面でも重要なプロセスです。
プロジェクトマネージャーによるチェック
成果物ができあがったらプロジェクトマネージャー(PM)が大局的な観点から最終チェックを行います。依頼元に納品する場合は、作業時に気づいた点や懸念事項などをコメントとして伝えます。
専門家によるチェック
必要に応じて、できあがった成果物をその分野の専門家がチェックします。例えば、契約書など法律に関するものなら法務担当者、広告コピーならマーケティング担当者、製品マニュアルなら製品開発者が目を通して、内容が目的にかなった適切なものになっているかどうかを確認します。
翻訳業務の品質管理は難しい?
翻訳の品質を管理するにあたっては、次のような翻訳業務ならではの課題があります。
品質目標がさまざまで、明確な測定方法がない
文章に関連する業務はどれもそうですが、正解はひとつではありません。翻訳者が10人いれば10通りの訳文があります。依頼元が何を求めるかによっても、スタイルや要件、重視するポイントが違ってきます。多言語化を行う場合は、言語ごとに仕様が異なる場合があります。
また、測定できないものは管理できません。つまり、期待される品質基準を定め、それをどの程度達成できているかを把握できる仕組みがなければ、適切な品質管理は難しくなります。
プロセスのどこで問題が発生したかがわからない
翻訳プロジェクトでは複数の人がチームで共同作業を行うため、プロセスがきちんと記録されていなければ、ミスがどの段階で発生したのかを突き止められません。翻訳やレイアウト作業時はもとより、チェックの段階でも誤解や行き違いによりミスが起こる可能性があります。また、作業途中で原文に修正が入った場合などにも、混乱が生じることがあります。
翻訳者へのフィードバックを怠りがち
訳文をチェックしてミスを修正すれば、成果物の品質は確保できますが、それだけでは次回以降のレベルアップに生かされません。そのため翻訳者・校正者に問題点や改善点を共有することが重要になります。
人間誰もがミスをし、文章の捉え方も人によって違います。そのことを念頭に、フィードバックを送る側も、受け取る側も、このプロセスを前向きに活用していく姿勢が大切です。人物の評価ではなく、目的に合わせて作業をチューンアップしていく手段であることを共有しておくとよいでしょう。
フィードバックは、経験の浅い翻訳者・校正者がいち早く戦力になるためのプロセスとしても重要です。漠然とした評価ではなく、改善すべき点を明確に示し、場合によっては採点式の方法を用いることで、翻訳者・校正者は自分のパフォーマンスを把握し、次のプロジェクトに向けて具体的な行動に移せます。
複数のプラットフォームが混在している
案件ごとに異なるツールやプロジェクト管理システムを使っていると、それぞれに応じたQAプロセスを定めなければならず、チェック、修正、フィードバックの作業を効率化しづらくなります。手順の混同によるミスの可能性も生じ、問題が発生した際の対処や原因特定も煩雑になります。
一般的に、使用するツールや行う手順が多いほど、コストがかさみ、ミスが発生する可能性も高くなります。例えば、フィードバックを行う際に、プラットフォームごとにファイルをダウンロードし、それぞれの形式に合わせてコメントを記入して、メールで各担当者に送信するというワークフローは、手作業が多く、改善の余地があります。
品質保証に力を入れることは大切ですが、手間や時間がかかりすぎてはいけません。時は金なりです。1つのプラットフォームですべての手順をカバーできるシステムがあれば、時間とお金の節約になります。
クライアントやプロジェクトごとに品質要件が異なる
プロジェクトや依頼元によって、求める要件が異なるのが普通です。翻訳業務の担当者や翻訳会社は、そのような様々な要件にいかに効率的に対応するかが、課題のひとつです。
幅広いフォーマットに対応し、要件ごとにワークフローをカスタマイズしやすいシステムを導入することが業務合理化の鍵となるでしょう。
翻訳管理システムがQAの強い味方になる理由とは?
上述のような品質管理の課題解決に役立つのが、翻訳管理システム(TMS)です。翻訳管理システムは、次のような点で品質保証に貢献します。
翻訳者の作業環境の向上
まず何といっても、最初の翻訳段階での品質が結果を左右します。翻訳のクオリティが十分でなければ、後からいくらチェックをしても改善には限界があります。そのため、翻訳者が良い仕事ができる環境が整っていることが重要です。
翻訳管理システムには通常、翻訳メモリ(TM)や用語ベース(TB)といった翻訳支援(CAT)ツールが備わっています。翻訳メモリを使えば、承認済みの過去訳をデータベースから瞬時に自動検索して、訳文を再利用できます。用語ベース機能では、原文に指定の用語が登場すると、システムが適切な訳語を自動で教えてくれるため、用語表記の統一に役立ちます。
1つのプラットフォームで管理を一元化
多くの翻訳管理システムは、幅広いフォーマットに対応し、クライアントや案件ごとにワークフローをカスタマイズして設定できるため、作業者・管理者の手間を減らし、効率化と品質の向上を図れます。
例えば、翻訳者・校正者による編集作業が完了すれば、自動的にDTPエンジニアに通知が送信され、ファイル処理工程に移行するなど、実際の業務の流れに合わせたワークフローを設定して自動化できます。
すべての関連作業を1つのプラットフォームに集約することで、管理も容易になります。プロジェクトマネージャーは、翻訳者、校正者、編集者、DTPエンジニア、ウェブ開発者、クライアント担当者などに、あらかじめ作業の権限を割り当てておくことで、混乱なく共同作業を行え、問題発生時にも原因を特定しやすくなります。
特にクラウド型の翻訳管理システムでは、全員が同じプラットフォームで作業できるため、バージョンの行き違いなどの混乱が起こりません。また、セグメントごとに、申し送りコメントを残せる機能により、担当者が問題にすぐに対処して解決でき、品質確保に役立ちます。
QAツールの活用
多くの翻訳管理システムには、QAツールが搭載されています。QAツールとは、原文と訳文のセグメントを自動で比較検証して、エラーがないか自動でチェックしてくれる機能です。該当箇所や修正候補をわかりやすく表示してくれるため、修正作業も容易です。
数値や用語の間違いは、ビジネスに大きな影響を及ぼす恐れがあります。QAツールは、ルールから外れるものは確実に見つけ出すという機械の強みを活かして、人間のミスをカバーし、品質確保に役立ちます。
QAツールでは、一般的に以下のようなエラーを検出できます。
- 言語的なエラー:スペルミス、原文と訳文でと数値が一致しない、空欄のセグメントがあるなど
- 用語のエラー:規定された用語と異なる訳語や、禁止されている訳語が使用された場合など
- フォーマットやタグ付けのエラー:訳文と原文でタグが異なる、位置がずれている、フォントスタイルが一致していないなど
- ワークフローのエラー:翻訳者が確定していないセグメントがある、未解決のコメントがあるなど
- カスタムチェックによるエラー:カスタマイズされた独自のルールに従っていない
また、翻訳管理システムでは、管理者側でQAチェックを必須事項として設定できます。これにより、作業者はQAチェックを実行してエラーを解決または確認済みにしない限り、訳文を提出できなくなり、チェックのかけ忘れによる見落としを防げます。ミスが残ったまま翻訳を確定してしまうと、翻訳メモリに保存される文章にもエラーが残ってしまうため、データベースの品質確保の意味でも、完了前のQAチェックは重要です。
LQA(言語品質評価)機能の活用
翻訳管理システムによっては、LQA(Language Quality Assessment:言語品質評価)機能が備わっているものがあります。これは人間のレビュアーによる翻訳者の評価やフィードバックの提供を支援する機能です。
LQAでは、以下のような評価基準が用いられます。
- 正確性:翻訳の過不足、誤訳、不正確な情報などがないか
- 流暢さ:適切な文法、統一された用語が使用されているか、文章が自然かなど
- 言語・地域への適合:住所や通貨、寸法などの形式が規定通りにローカライズされているか
- 文化的適合:対象となる地域や文化に適合した表現になっているか
- デザイン:目的に応じたテキストの長さやスタイルになっているか
このようなLQAの評価項目を、自社の要件やスタイルガイドと対応させることで、品質の確保・向上につながります。例えば、コンテンツの種類や分野ごとに、異なるルールや重み付けを適用できます。法律文書では正確性のスコアの重みを増やし、マーケティング用コンテンツでは重みを減らす、といった運用です。このようなチューニングにより、実態に即した評価を行えるようになります。
翻訳者は、プロジェクトやコンテンツの種類に応じたフィードバックを受けられ、良い点や改善すべき点を把握できます。疑問点などがあれば、システム上で簡単にコメントや返信ができるため、関係者間で具体的なセグメントについて詳細にやり取りでき、効果的にレベルアップを図れます。
このような評価やフィードバックを個別のファイルで行うとなると、手作業が増え、問題点を詳しく説明するには手間もかかります。指摘が具体的でなければ、翻訳者の納得度も低くなります。結果として、フィードバックを送る作業の優先度が下がってしまい、品質向上のチャンスを失ってしまうことになります。
翻訳品質の管理は思うよりも簡単
翻訳におけるQA(品質保証)について、具体的なプロセスとベストプラクティスをお伝えしてきました。手間がかかりそう、とQAへの取り組みに二の足を踏んでいる場合があるかもしれませんが、実際にはそれほど難しいことではありません。ポイントは、まず自社のワークフローを見定め、それに応じた仕組みを構築することです。
その際に、紹介してきたような機能が備わっている最新の翻訳管理システムを使用すると、品質管理や評価のプロセスを1つのプラットフォームで容易に実装でき、労力に対する効果を最大化できます。チェック機能や評価の仕組みをカスタマイズし、スタイルガイドや求められる要件と連動させることで、より効果的な品質保証が可能になります。
QAは現在の品質を確保すると同時に、将来のビジネスの成長にもつながる、戦略的にも重要な施策です。後回しになりがちなフィードバックの共有などを含めて、品質管理プロセスを積極的に導入することは、未来の発展を導く有益な一歩となるでしょう。
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